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ドイツ・バーデンヴュルテンベルク銀行財団からの小冊子

ご存知ですか?

● エルスベーレは、ドイツでは、「森の神秘的な樹」とされており、化粧材用の幹が、15000ユーロもします。

● この樹種の果実には、治癒力が備わっており、胃腸に良く効きます。

● この樹は、300年かけて、30mの高さにまで成長します。

● 果実には、たくさんのビタミンCが含まれています。

● 家具材のスイス梨には、実はよくエルスベーレが使われています。

● 果実からは、高品質のブランデーが作られていて、1リットル300ユーロで取引されています。

● エルスベーレの木材は、1900年のパリ万博において、「世界で最も美しい木材」と認定されました。

● エルスベーレは内装材にもすぐれていて、ヨーロッパ中央銀行やアラブ富豪の宮殿の内装にも使われています。

● エルスベーレの実は、中世の時代、非情に需要の高いものでした。マルティン・ルターは、友人に宛てた手紙の中で「もっとこのおいしい実を送って欲しい」と書いています。

(注)

エルスベーレは、ヨーロッパ産ナナカマド属の一種。バラ科。葉の形等日本のナナカマドとは若干異なる。

エルスベーレ

〈忘れられた野生果樹〉

かつて「シェーネ・エルゼ」(美しいエルスベーレ)と呼ばれた樹のことを、今日誰が知っているでしょうか? 私たちの先祖は、この樹のことをよく知っていて、とても大切にしてきました。エルスベーレの実と木材は、とても長い間愛されてきたのです。もしかしたら、子どもの頃、この樹の実を採った記憶のある人がいるかもしれません。そして、その忘れられない味を覚えている人がいるかもしれません。 葉の形は白バラを思い起こさせます。秋になると、葉は赤く輝くように色づき、自然のドラマを見せてくれます。樹皮は、リンゴや梨の樹のそれとよく似ていて、実は、野バラの実を思わせるものがあります。 これでおわかりにように、この神秘的な樹はいろいろな意味で際立った、すばらしいものです。エルスベーレは、バラ科の植物の中では最も大きく、また最も印象深いシュパイアリング(ヨーロッパ産ナナカマドの一種)とも親戚関係にあります。

歴史

古代ローマの時代、エルスベーレはすでにその医学的価値が認められていました。その頃は、乾燥したナナカマドの実が、虚弱体質の体や胃弱に用いられていました。紀元前200年頃の文献に、最初のナナカマドのラテン名、Sorbus (ソルブス)があります。また、紀元30年頃に、コーネリアス・セルサスによって、初めてエルスベーレの植物学的な名である Sorbus torminalis (ソルブス トルミナリス)が命名され、それは、こんにちに至るまで用いられています。

コーネリアス・セルサスののち、1500年ほど、この樹に関する言及はありません。エルスベーレに関する文献を探しても無駄なのです。 「エルスべーレ」というドイツ語名を最初に伝えたのは、マルティン・ルターです。ルターが1526年9月20日、友人のアグリコラに宛てた手紙の中に、この名前があります。

多様性

エルスべーレの樹種について、ドイツ語の文献の中には、200を超えるさまざまな名前があります。 たとえば、アデリッツべーレ(Adelitz-beere)、アルレスべーレ(Arlesbeere)、エルリッツェ(Erlitze)、エルフェンバウム(Elfen-baum)、シェーネ・エルゼ(schoene Else)などです。

中世の時代、エルスベーレの材は需要が多く、欠乏状態に陥りました。成長する数より、切り倒される数の方が多かったからです。エルスベーレの木材は特別に固く、また、重いので、特に強さを求められる箇所に多く使われてきました。

楽器や、ワイン圧搾機のネジの部分のような、大きな力がかかる所で、エルスベーレ材は他の材と競い合うように使われてきました。特に、織機や歯車、そして楽器で、この木材は重用されました。かつて、黒檀の代わりに、エルスベーレが黒く着色されて使われたこともありました。

フルート、バグパイプ、シャルマイ、風琴、ギター、バイオリンは、音の響きの良い材で仕上げられます。太鼓やオルガンのパイプ、チェンバロのキー、ハープ、ライアーにエルスベーレは最適です。

神話

エルスベーレは、また、長い間、治療目的で使われてきました。エルスベーレは、伝統医学で心臓病に効くと言われる白バラに似ています。ホメオパシー※でも、内的な強化のために、エルスベーレが良いことを知らない人はいません。 ヒルデガルト・フォン・ビンゲン※は、「万病に効く」と、エルスベーレを勧めています。ケルト人も、エルスベーレを重んじ、使ってきました。童話や伝説の中にも、この樹の言及があります。スイスの伝説「妖精の洞窟」では、金貨がエルスベーレの葉っぱに変わったという記述があります。 エルスベーレは、近視眼的な利益追求やエゴイズムに対する、人間性、社会性、文化を復活させようとする、新しい時代のシンボルなのかもしれません。

〈注〉

※ホメオパシー

ドイツ人医師、サムエル・ハーネマン(Samuel Hahnemann 1755〜1843)によって始められた。ハーネマンの主著「オルガノン」によると、類似したものは類似したものを治すという類似の法則があり、ある物質を健康な人に投与した時に起きる症状を治す薬としてその物質が有効であると主張。その物質が限りなく薄く希釈される(ハーネマン)の言葉を借りれば「物質でなくなる」)ほど治療能力を得ると考えた。代替医療(ホリスティック医療)の一種。日本では同種療法と訳される。

※ ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(Hildegard von Bingen 1098〜1179) 中世ドイツのベネディクト会系女子修道院長であり、神秘家、作曲家。医学,薬草学に強く、ドイツ薬草学の祖とされる。才能に恵まれ、神学者、説教者である他、宗教劇の作家、伝記作家、言語学者、詩人であり、また、古代ローマ時代以降、最初の女性作曲家とされている。

あまり知られていない、その美しさ

エルスベーレは、あまり知られていません。

樹木に詳しい自然愛好家でさえ、「見たことがない」と言うくらいです。けれども、よく見ると、その典型的な葉の形から、エルスベーレはすぐにそれとわかります。よく見られるのは、森の端の日当たりが良い場所です。 エルスベーレは、雑木林の中では隠れていることが多く、なかなか見つけることができません。高さは35mにも達することがあり、直径が60〜80cmになることも、まれではありません。最も太いエルスベーレは、デンマークのオルフスにありますが、直径が1,5mもあります。 有用な果樹として、エルスベーレは、長い間一定の保護を受けてきました。特に、オーストリアとフランスでは、伝統的にエルスベーレの実からブランデー作りが行われてきました。また、他の国では、腸の疾患に効くという理由から、その実が集められました。この効用は、人間のみならず、家畜にも及びました。 秋の見事な紅葉は、こんにち多くの人々を楽しませています。最も大きな、神秘的なバラ科植物として、エルスベーレは本当に注目すべき存在です。この貴重な樹種が忘れられていたということは、本当に信じられないことです。

シェーネ・エルゼ (美しいエルスベーレ)

ソルブス(Sorbus:ヨーロッパ産ナナカマド属の植物学名)という植物種は、次のように分かれています。

エルスベーレ(Elsbeere)    (Sorbus torminalis)

シュパイアリング(Speierling) (Sorbus domestica)

メールベーレ(Mehlbeere)   (Sorbus aria)

フォーゲルベーレ(Vogelbeere) (Sorbus aucuparia)

エルスベーレの樹皮は、たいへん際立っていて、梨の木やリンゴの木の皮とよく似ています。一度注意深く観察すれば、二度目に見たときには、すぐに分かるでしょう。 一度葉の形を覚えてしまえば、散歩に出かけたときに同じ葉っぱが落ちていれば、樹も見つけやすいでしょう。残念ながら、現在の森では、エルスベーレは単独で立っていることがほとんどで、林を作っているケースは極めてまれです。

エルスベーレは、白い花を咲かせ、5月〜6月の始めによく森の端のあたりで見ることができます。 エルスベーレは、また、ミツバチが好む樹でもあります。

エルスベーレがその華麗さを見せるのは、特に秋です。葉の紅葉や色づいた実が私たちの目を惹きつけます。エルスベーレは、秋の早い時期に葉を真っ赤に染めます。

すばらしい果実

エルスベーレの大木が特にたくさん見られるのは、ウィーン西部の森です。何百年も前から、そこでは、エルスベーレの実からの上質のブランデーが作られてきました。 エルスベーレの実は野鳥に好まれるので、熟す前に摘み取られます。秋になると、木の下に布を広げて、男たちが木の上の方から、まだ固い実を摘んだり、切り落としたりしている光景がみられます。 他の果実のように、エルスベーレの木を揺すって果実を落とすことはしません。無駄だと分かっているからです。 実は、固く小さい枝から一粒づつ摘み取られ、熟成期間を経て、かき混ぜ、原汁をつくり、発酵させます。きれいで大きな果実から原汁を作り、蒸留での前留出物と後留出物 (どちらも味は良くありませんが) をきちんと分けることで、最高のブランデーが出来上がります。

それは、本当にヨーロッパで最も高価なブランデーです。

この、数に限りがある、農家の産物「アデリッツベア・ブランデー」は、「オーストリアの貴重品」と名付けられていますが、1リットル300〜400ユーロで売られています。

エルスベーレ・ブランデー エルスベーレ・ブランデーは、売り手と良い関係を保った上で、あらかじめ予約をした場合のみ、手に入れることができます。しかも、その量は、ごくわずかなのです。 この高価な値段は、フランスのアルザス地方で1895年に出された報告を見れば、それほど驚かないでしょう。その報告っでは、エルスベーレ・ブランデー1リットルの値段が、アルザス林業労働者の月給の20%に相当するというものでした。

最近まで、蒸留酒製造工場に原料を卸している農場は、わずかに存在するだけでした。ところが、近年、エルスベーレ・ブランデーを楽しもうという国際的気運が高まり、このブランデーは、料理業、レストラン業の中で特別な地位を獲得しつつあります。何軒かの蒸留酒製造業者が、「Eau de vie de lalisier torminal」というフランス名のエルスベーレ・ブランデーを造ろうとしています。 ただ、それでも、果実は不足しています。

特別に価値の高い木材

エルスベーレは、世界で最も美しい樹の一つです。 その木材は、すばらしい特性を持っていて、非情に固く、また、重量があります(樫より固くて重いのです)。家具材としても、エルスベーレは、特別クラスの高級材です。材の表面は、質感がビロードのようで、神秘的で、その材に触れる体験は比類のないものです。また、その特徴のある香りは、果樹材であることを思い出させます。 楽器製造においても、エルスベーレは利用価値の高いものです。音の響きも、エルスベーレ材は南洋材に劣りません。とても加工しやすく、その表面は、魅了されるような美しい表面です。マイクロスコープで見る断面も、驚くほど美しいものです。

エルスベーレ材は、多様な色彩を持っています。明るく、赤みがかっていますが、ときには暗い赤色の節があったり、微細な含有物が含まれていることもあります。 木目がつまっていて、ひかえめで上品な組成を持っています。木目には、火炎模様が見られることもあります。木材取引でわずかしか手に入らないエルスベーレ材は、蒸気処理されることがほとんどです。そのことによって、色彩の差は失われ、材は、均一な赤みがかった色調になります。そうなると、もはや、蒸気処理された梨材と区別がつきません。このため、かつてはエルスベーレ材が「スイス梨」と呼ばれたのです。 エルスベーレは、近年、上質の家具材になり、木材の愛好家たちの評価は高まっています。

デザイン性に優れた原材料として

化粧板に使うことができる木材として、1立方メートル当たり5000〜15000ユーロで取引されるエルスベーレ材は、いつも新聞の第一面に登場しています。それは、良質の樫材の数倍もするほどです。その木材は、国を代表する建築物の内装材として、国際的な需要が高まっています。

高貴な一品もの

ほとんどの加工業者は、一品ものの家具を作らず、シリーズの家具を作ります。シリーズであれば、同じものを作れますし、同じものが欲しいという注文に答えることができるからです。 そのためには、木材も均一でなければなりません。自然条件によって生まれるもの、たとえば、梁にみられるような木や枝の美しく特徴的な形態、美しい木目模様、魅惑的な節の色などは、シリーズ家具に望むことができません。こうして調達された木材は、数少ないデザイナーが一品ものの家具を生産するために残されるのです。

この市場のすきま、欠落部分は、新しい専門的な職人のための仕事場を開拓し、開業に向けて創造的で個性的なアイデアを生み出すきっかけになります。

多くの特徴を持った樹

多くの特徴を持ったエルスベーレは、ドイツでは残念ながら数が少なくなってしまいました。しかし、まだ、エルスベーレが見られる地域はあります。ディーフェンバッハ(Diefenbach)とザイザースヴァイアー(Zaisersweiher)の間のあたり(バーデンヴュルテンベルク州のマウルブロン Maulbronn / Baden-Wuerttemberg)です。そこには、平らで公園のようになっている場所があって、多くの木が単独で立っているのですが、そこに9本のエルスベーレの大木があります(樹齢200年を超える木です)。このような場所は、ドイツではただ一箇所です。ここでも以前はもっと本数が多かったのですが、長い間に、何本かが枯れてしまいました。

過去を知る人たちは、未来に対する責任を持って、今ある文化遺産を大切に守り育てることを勧めます。過去の教訓を生かし、エルスベーレの新たな植林を進めるべきだと言っています。 エルスベーレは、ドイツでは、氷河期の後、光が良く差し込むすきまがある森に良い条件を見つけて定住しました。閉ざされた、光に乏しい森ばかりを作る現在の林業のもとでは、エルスベーレの生存の可能性は失われるばかりです。エルスベーレは、その生存基盤から押しのけられています。ブナは、400年もの間、増えつづけています。種が絶滅してしまったら、二度と再生することはできません。「自然の再生」とか「自然に即した森林科学」というスローガンが叫ばれているにもかかわらずです。もし、これからの森林創りが、植林によらずに自然に任せられるだけだったら、ドイツのエルスベーレは、生存に適した環境を得ることは難しいでしょう。

影の存在?

エルスベーレは、木材価値の高さゆえに不運に遭いました。イチイ(Eibe)、ツゲ属の木(Buchbaum)、そして、シュパイアリング(Speierling)も同じです。これらの材も、何百年も、家具材や構造材として、重用されました。大きく成長した、真っ直ぐで元気が良い木は、良質の木材なので無慈悲に切り倒されました。成長が悪い木、悪い環境に生えている木や、ねじ曲がった木は、無傷で残りますが、これらは、いわば「ネガティヴ・セレクト」というべきものです。 植林をする人たちやその業者は、野生のまま放置しておくことによる損害を無視すべきではありません。 こんにちの森に残っているのは、ほとんどが成長の悪いエルスベーレばかりで、言葉の真の意味で「影の存在」になっています。しかし、いま、再び質の良い木を育てる新たな方法が見つかっています

蓄えが少ない木材

こんにちのドイツで、エルスベーレ材の生産は、全林業をあげても、年間で数百キュービック・メートルも産出できません。それに対しフランスでは、東部の混合林で、年間数千キュービック・メートルもの丸太材を産出することができます。 ドイツの林業は、何世代にもわたって、「稀少樹」に眼を向けてこなかったため、価値ある木材が欠乏する状態に陥っています。良質の南洋材等の輸入材が入ってこなくなっている今、多くの加工業者、家具や建具の職人、床材を扱う業者たちは、自分たちが望むものを生産できません。 この傾向は、すぐに変えられるものではありません。木は、再生して再び木材として使用できるようになるまで、140年かかります。 それゆえ、すべての森林や土地の所有者は、稀少種の樹を、ふさわしい場所に植えることが求められています。そうすることによってのみ、充分な分ち合いが可能になるのです。

育種

エルスベーレの育種は、それほど簡単ではありません。そのため、良いエルスベーレを提供できる種苗栽培園や養樹園は多くありません。しかし、次に挙げる方法で、育種の成功が確実なものになるでしょう。

一歩づつ

9月下旬頃、生命力のあるエルスベーレから果実を収穫し、柔らかくなるまで1〜2週間寝かします。そして、2〜3粒の種を果実から慎重に取り出し、発芽させます。果肉は、とてもおいしいマーマレードやリキュール、シャーベットに加工できます。シャーレの中に、泥炭土と砂を混ぜたものを敷き、種を入れて、軽く蓋をします。冷蔵庫に入れ、約4度の状態で14週過ごし、冬を越します。

実生

新たな可能性として、この種が入ったシャーレにガラスの蓋をして、暗い所に置き、冬を越します。春になったら、そのままの状態で、20度位の暖かいところに移します。すると発芽が見られます。二葉の若芽を、柔らかい根を傷つけないように注意しながら、泥炭土の鉢に植え替えて、温室で保管します。 一番いいのは、ムーンカレンダーに従って植え替えることです。

大切に育てられたエルスベーレの実生は、5月末に露地栽培に移されます。また、より大きく育てるために、泥炭の園芸容器コンテナーに移される場合もあります。そこでエルスベーレは、主根を力強く伸ばしていきますが、この根は、1年後に下方を切り取られます。そして、秋になると、他の動物にかじられないように保護されて、新しい、最終的な地に植えられます。

1年を経過した実生の高さは、だいたい50〜150cmになります。 エルスベーレの育成について、さらに詳しく知りたい方は、下記のホームページをご覧下さい: www.corminaria.de

契約

資格を持った種苗栽培園や養樹園は、森林を育てるために、育種および品種改良の契約(Nachzuchtvertrag)を交わすことが肝要です。 そうすることによって、生命力の強い木や天然記念物に指定されている木を伐採することができます。この契約の利点は、価格の安定、種樹の選定、計画性、労働の確保、価値の高い樹への持続的な投資等にあります。スポンサー、市民参加、自然保護に対する平等な支払など、自然保護施策をすすめ、経済的な問題が起こらないようにするために役立ちます。 専門家の手で、エルスベーレの苗木は、30〜100本くらい束にして、森林の大きな隙間に植えられます。エルスベーレは、イチイ(Eiben)やクマシデ(Hainbuchen)、シュパイアリング(Speierling)、コブカエデ(Feldahorn)、オーク(Eichen)などと良く馴染みます。 エルスベーレは、よく鹿が角を研いだり、かじったりするので、しっかり保護してやらないと、なかなか生き延びられません。そして、エルスベーレにとって、何よりも大事なのは、樹幹に充分な光が当たることです。

危機に瀕している樹種

エルスベーレにとって最大の危険は、閉鎖的な用材林にあります。 もし古い植林区画にエルスベーレが残っていたら、すぐに柵で囲って、動物の食害から守ってやらなければなりません。 種子の発芽は、なかなかうまくいきません。冬の間に、ネズミにほとんど食べられてしまうからです。たとえ無事に芽が出ても、その後で動物にかじられてしまえば終わりです。そして、この試練を乗り越えても、隣り合う木々に対抗して成長していかなければなりません。その後、運が良ければ、若木の枝おろしが行われるとき、発見され、広い場所へ移されるのです。

エルスベーレの分布

エルスベーレの分布は、ヨーロッパ中部を中心に広がっています。果樹栽培が可能な地域であれば、どこでも、エルスベーレを植えることができます。 エルスベーレは、寒さに強く、北はデンマークのリュッゲンやスウエーデンまで分布しています。南ヨーロッパや北アフリカでも見ることができます。また、その起源はコーカサスと推測されています。 一番多く分布しているのは、バルカン半島とフランス東部です。ドイツでは、ワイン生産が盛んな地方や古い落葉樹林帯で、エルスベーレが見られます。バーデン・ヴュルテンベルク州では、タウバータール(Taubertal)、シュトロームベルク地方(Stromberggebiet)、ホーエンローアー台地(Hohenloher Ebene)、フレンキッシェンヴァルト(Fraenkischen Wald)、シュトゥットガルト(Stuttgart)、ウルム(Ulm)、そして、ウルム近郊(Ulm herum)で、よく見られます。単体の分布はドイツ全土に広がっているため、より詳しく探さないとわかりません。

特に多く見られるのは、フランス東部の落葉樹林帯です。

エルスベーレにとって住みやすい環境は、他の競い合う樹種が少ない所、つまり、暖かくて乾燥した地域です。もちろん、人間が保護し、世話する所ならどこでもOKです。

さまざまな名前を持った樹

ヨーロッパの多くの国々で、エルスベーレは珍重され、使われてきました。

他の国ではどう呼ばれているか、例を挙げてみましょう。

ベルギー        Elbes

イギリス        wild service tree

フランス        Alsier torminal

イタリア        Sorbezzolo

クロアチア       Brekinja

ルクセンブルク     Elschter

モナコ         Sorbier

オランダ        Elsbes

ルウエー       Tarmvrirogn

スペイン        Mostajo verde

オーストリア      Adelitzbeere

分布図(1990年)

白色で示された所は、近年、調査が進められ、幸いなことに新しいエルスベーレが発見されている地域です。

保護と育成の可能性

こんにちの私たちの無味乾燥な文化生活と風景に、エルスベーレは、驚くような、すばらしい豊かさを与えてくれます。街路樹、幼稚園、学校、公園、工業地帯にとって、エルスベーレは新しい文化をもたらす樹になります。 それはもちろん、私たちの森林にとっても同じです。森林には、自然災害等で樹木がなくなってしまった所があります。過去の教訓を生かし、そこに、エルスベーレやその他の稀少種を植えるのは運命的なことなのです。

エルスベーレを人間が保護し、育成して、その数を増やすことができる地域は、年々狭まっています。森林の調査には、残念ながら、充分な支援がありません。そのため、分布の中では消滅してしまった所もありますが、はっきり掴めていないのが現状です。ドイツの各州では、稀少種の落葉樹を保護し、植林を進めていく旨の通達が出されています。

形式上の手続きを踏むことで、保護と再生が可能になります。必要なのは、植樹、柵作り、保護と存続のための財政資金、そして、専門的な人材です。

確保と持続のために

エルスベーレを森林の外、つまり開けた土地に植えるのは簡単です。しかし、耕牧地に植える場合、考慮すべきことがあります。エルスベーレは、大地にしっかりと根付き、強い抵抗力を持っています。また、その花や実は、蜂や鳥に好まれます。プランナーや景観デザイナーは、さまざまな樹木を植林する時、エルスベーレのことを良く考え、このすばらしい価値を持った樹を育てることの積極的な意味と貢献度の大きさについて考えるべきです。そうすることによって、質の良いエルスベーレを十分に確保することが可能になります。

購入に際しての責任ある態度 ブナやトウヒばかりのモノトーンな森林を嘆いたり、熱帯雨林の伐採に文句を言うよりも、貴重で神秘的な樹種に、ふさわしい必要とされている援助を行うことの方がはるかに重要です。 私たち一人一人は、購入し、消費することで、自分の国や故郷の将来への責任を負っています。 人の誕生や洗礼、祝祭、記念日など、エルスベーレを植樹する、あるいは(エルスベーレの保護や植林のために)寄付を行う機会には事欠きません。国有林や自治体で管理する森は、私たちが共有する財産です。これらの森が将来どのような姿になるか、大企業のための「材木畑」になるのか、それとも、神秘的で貴重な樹種が点在する生命力のある混合林になるのか、その行方は私たちの手にかかっています。